BEAUTITUDES

KAORU KONDO, TOKYO PHILHARMONIC ORCHESTRA

 

楽曲 The Beatitudes

作曲 Vladimir Martynov

演奏 第1ヴァイオリン [Live] 福田 俊一郎
   第2ヴァイオリン [Live] 城戸 かれん
   ヴィオラ [Live] 藤村 政芳
   チェロ [Live] 黒川 実咲
   第1ヴァイオリン [Rec] 近藤 薫
   第2ヴァイオリン [Rec] 小関 郁
   ヴィオラ [Rec] 中村 洋乃理
   チェロ [Rec] 矢口 里菜子

録音 村松 健(株式会社オクタヴィア・レコード)

協力 株式会社オクタヴィア・レコード
   TOKYO VIDEO

今年はコロナ禍でリモートやバーチャルといった手法が普及して、テクノロジーを利用した新しいコミュニケーションのスタイルが出てきました。大学での授業もそうですが、今は、直接対面しないコミュニケーションの機会の方が多いかもしれません。芸術の世界でも、音楽を聴きたい、届けたいという人たちの想いにこたえるべく、リモートオーケストラや、 Web 配信のコンサート等、色々な方法に取り組みました。テクノロジーは日々進化しますが、やはりリアルにはリアルにしか出来ないことがあります。新しい試みを続けながらも、何を大切にし、テクノロジーの世界とリアルの世界をどう融合させるか考えていくことが、非常に重要だと考えています。

演奏したウラジミール・マルティノフの「The Beatitudes」は、あらかじめ録音された4重奏に、ライブの4重奏を合わせて演奏するという、一風変わった8重奏の楽曲です。つまり「テクノロジー」を使用して録音された演奏と「リアル」のライブ演奏による不思議なアンサンブルです。今回の動画では8人が同じ空間に存在しますが、元々は目に見える4重奏と、目に見えない4重奏の共演とも言えるかもしれません。
楽曲は、小さな希望が生まれるような静かな導入の後、録音された演奏にライブの演奏が重なり、まるで深層心理に働きかけるように小さな変化を加えながら、柔らかなメロディを何度も何度も紡いでいきます。
そして、曲尺のちょうど黄金比に当たる辺り(芸術的な黄金比は、視覚的な空間だけでなく、時間にも当て嵌まります!)、映像では上空を旋回しながら時計台を一回りする場面で、それまで主と従の関係であった録音された演奏とライブ演奏が、初めて同時にメロディを奏で、遂にクライマックスを迎えます。ここで両者の融合が生じ、「新しい展開」が生みだされ、そのまま幸福な時間が永遠に続いていくように楽曲は閉じます。この曲は、「テクノロジー」だけでも「リアル」だけでも成り立ちません。融合によって引き出される互いの良さや新しい世界を、ぜひ演奏からイメージしていただき、美しい未来に想いを馳せていただけたらと思います。

近藤薫